一眼レフでマクロ撮影を勉強する場合、他の撮影とは違って独特の専門用語が出てきます。
初心者の人がチャレンジするには基礎知識が必要なので、少し難易度が高い撮影になります。
このページでは図を用いてマクロ撮影の基礎から解説しているので参考にしてみてください。
本来一眼レフは接写が苦手
一眼レフは近づいて撮る「接写」が苦手だということは、コンパクトカメラを使っていた人はほとんど知らないと思います。
「マクロ写真?ただマクロモードにして近寄って撮ればいいんじゃないの?」
このように思いがちですが、カメラはボディが大きくなるほど、近寄って被写体を大きく写すのが構造上難しくなります。
(この理由は下の「大きなカメラほどマクロ撮影が苦手な理由」の項目で解説しています)
画質に関係なく単に大きく写すだけなら、実はコンパクトカメラの方が有利です。
しかし各メーカーが一眼レフで接写できるマクロレンズを用意していて、このレンズをつけることで一眼レフでもマクロ撮影ができるようになります。
一眼レフのマクロ撮影は、高画質で大きなボケ味を表現できる特徴があり、別世界のような写真を撮ることができる醍醐味があります。
入門者向け一眼レフにはモードダイヤルに花アイコンの「マクロ」が用意されていますが、これはF値など数値が調整されるだけで接写ができるようになるわけではありません。接写をするには必ずマクロレンズ(またはクローズアップレンズなど)を用意する必要があります。
3種類の方法がある
接写をするには、マクロレンズを使う・クローズアップレンズを使う・エクステンションチューブを使う、の3種類の方法があります。
基本はマクロレンズになりますが、コストが安いクローズアップレンズ、エクステンションチューブを使用する人もたくさんいます。
予算やどのくらいの頻度で接写をするのかによって選択するとよいと思います。
マクロレンズから順に、メリット・デメリットを解説していきます。
マクロレンズとは
マクロレンズは近い位置でもピントが合うように設計されたレンズです。
特徴をまとめるとこのようになります。
- 高画質でマクロ撮影ができる
- ボケ量が大きい
- マクロにも通常撮影にも使える
- レンズが数万円と高い
- 持ち運ぶレンズが増える
- 単焦点レンズとしてはF値はそれほど小さくない
まずメリットとしては、一眼レフで近寄って撮影ができるので、大きなボケ味を出すことができます。
近い位置だけでなく、通常のレンズと同様に遠くにもピントが合うので風景撮影にも使用することができます。
デメリットはレンズ価格が比較的高い、マクロ専用のレンズが必要になるため持ち運ぶレンズが増えることになります。
そして明るい単焦点レンズでは開放F値が1.8程度ですが、マクロレンズの場合は小さくてもF2.8になります。
そのため接写以外での被写体背後のボケ味は、明るい単焦点レンズより弱くなります。
<マクロレンズにて撮影>
マクロレンズは最大撮影倍率が大きいほど大きく写る
マクロ撮影をするなら、もちろん大きく撮りたいものです。
大きく撮れる性能があるかどうかは、レンズ仕様表の最大撮影倍率で判断することができます。
マクロレンズを購入するときは100%チェックしないといけない数値になります。
例えばキヤノンのマクロレンズ、EF-S60mm F2.8 マクロ USM(APS-C機につけると焦点距離96mm)の場合です。
このレンズの仕様表にはこう書かれています。
最大撮影倍率が「1倍」と書かれていて、十分に大きく写すことができるレンズになります。
「1倍なのに、大きく写るの?」と思うかもしれません。
しかし通常レンズの最大撮影倍率は0.1~0.3倍程度になっています。0.3倍のレンズでも大きく写せる部類に入ります。
つまり通常レンズで一番近づいて撮った写真より、マクロレンズは3倍以上大きく写すことができるというわけです。
一部のレンズでは「ハーフマクロ」という最大撮影倍率が0.5倍の種類もあります。マクロレンズとして表記されることもあるので必ず仕様表を確認しておきましょう。
最大撮影倍率の「1倍」ってどれくらい大きいの?
「1倍」というだけではどれくらいの大きさに写るのかわかりませんね。
そこで通常のレンズとマクロレンズで近寄った場合の写る大きさを比較してみます。
まず通常レンズ(最大撮影倍率0.3倍、焦点距離40mmと仮定)で直径2cmの1円玉を接写してみます。
最も近い距離でピントが合うのがレンズ先から1円玉まで約10cmです(それ以上近づいてもピンぼけになります)。
一番近づいて撮影しても、写真ではこれくらいの大きさになります。
もし最大撮影倍率が0.1倍のレンズだったら、この1/3の大きさで写ってしまうことになります。
次に、最大撮影倍率1倍、焦点距離60mm(35mm判換算)と仮定したマクロレンズで接写した場合です。
この焦点距離60mmのマクロレンズでは被写体まで3cmくらいまで近づいてもピントが合います。
かなり大きく写りましたね。
マクロレンズは通常レンズよりも接近してピントが合うよう設計されているので大きく写せることになります。
最大撮影倍率が「1倍」というのは、最も近い位置でピント合わせをした時に、実物大の大きさでカメラ内部に像が写る(等倍撮影)という意味です。
カメラ内部に写った像から、センサーの枠で切り取ったものが写真となります。
このように大きく写すには最大撮影倍率が重要になるので、マクロレンズを選ぶ際は仕様表を見ておきましょう。
上の例ではカメラ内部に写った1円玉を、APS-Cセンサーの枠で像を切り取り写真となっています。
しかしフルサイズ一眼の場合はセンサー枠がAPS-Cより一回り大きく、1円玉よりも大きい枠で切り取るため、仕上がり写真としての1円玉はAPS-C機より少し小さく写ることになります。
逆にコンパクトカメラの場合はかなり小さい枠で1円玉の像を切り取るため、仕上がり写真は1円玉の一部分が写真いっぱいに写ることになります。
センサーが大きなカメラほどマクロ撮影が苦手なのはこのような構造上の理由になります。
最短撮影距離とワーキングディスタンスについて
最短撮影距離とワーキングディスタンスも必ず出てくる用語になります。
言葉は難しいですが、図を見るとわかりやすいです。
■最短撮影距離
最短撮影距離とはピントが合う最も短い距離のことを言います。
具体的には図のようにカメラ本体のセンサー位置から被写体までの最短距離になります。
センサーの位置は外からは見えませんが、カメラボディの肩部分には距離基準マークが記載されています。
センサーと並行した位置にあるためここから距離を測ることができるようになっています。
最短撮影距離はレンズの仕様表で把握できます。
例えば先ほどのキヤノンのEF-S60mm F2.8 マクロ USM。
最短撮影距離は0.2mと書かれてあり、20cmということがわかります。
例えばEOS Kiss X7に装着した場合、最短撮影距離はこのようなイメージになります。
■ワーキングディスタンス
ワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)は仕様表には書かれていません。
被写体に最も近づいてピントを合わせた状態で距離を測ってもよいですし、計算でも割り出すことができます。
先ほどのEOS Kiss X7に装着した場合、距離基準マークの位置からレンズ先端までの長さはだいたい11cmです。
最短撮影距離は20cmですから20cmからこの11cmを引くと、9cmとなります。
つまりワーキングディスタンスは9cmということになります。
これは焦点距離60mmマクロレンズの例ですが、40mmマクロレンズならワーキングディスタンスが3cmなどレンズに接触しそうなほど接近することになりますし、200mmマクロレンズなら被写体と約15cm空くことになります。
(ただし、どの焦点距離のレンズも最大撮影倍率が「1倍」だった場合、写る大きさは全て同じになります)
自分が使うレンズが何cmまで寄れるのか、この方法で調べておくことができます。
マクロレンズでも焦点距離がいろいろ
同じマクロレンズでも焦点距離が50mmのもの、100mmのもの、200mmなど様々な種類があります。
先ほど説明したように、最大撮影倍率がいずれも「1倍」であればどの焦点距離でも写る大きさは同じになります。
それではどのように使い分けるのでしょうか。
それは接近して「1倍」に写すのか、距離をとって「1倍」に写すのかという違いがあり、状況により最適なマクロレンズは変わります。
50mm(35mm判換算)のマクロレンズであれば、等倍撮影をするためにはワーキングディスタンスが3cmなどかなり接近する使い方になります。
デメリットとしては接近しないと大きく写せないので、例えば少し奥にあって近づけない花は等倍撮影ができませんし、昆虫撮影で数cmも近寄ると逃げられてしまうこともあると思います。
100mm以上の望遠マクロレンズは、最も接近したとしても20cmほど距離が空く使い方になります。
そのため少し奥にある花でも等倍撮影ができますし、距離をとれるので昆虫撮影にも適しています。
また同じ「1倍」のレンズでも望遠のため50mmよりボケ量が大きいという特徴もあります。
デメリットとしては、レンズが重いので扱い辛く、焦点距離が長いので手ブレが起きやすいという問題があります。
一般的には50mmよりも100mmくらいの焦点距離の方がマクロ撮影がしやすく、メーカーもこの焦点距離のマクロレンズを多く揃えています。
何を撮影対象にするかによってレンズの焦点距離を選ぶことになります。
50mmマクロレンズなら標準レンズとして常用できる
昆虫を大きく写すには100mmマクロレンズの方が扱いやすいですが、焦点距離50mmならふつうの標準レンズとしても使用ができます。
50mmなら料理撮影やテーブルフォト(小物撮影)にちょうど使いやすい焦点距離ですし、街中スナップにも適しています。
単焦点レンズなので写りも良いのでマクロ撮影以外にも多くの場面で活用ができます。
ニコン、キヤノン、ソニー、ペンタックス、オリンパス、パナソニックなど各メーカーから35mm判換算で60mmなど標準画角に近いマクロレンズが発売されています。
マクロレンズの開放F値はF2.8程度のため、F値1点台の単焦点レンズほどの大きなボケは表現できません。
クローズアップレンズとは
ここからはマクロレンズ以外でマクロ撮影をする方法をご紹介します。
クローズアップレンズとは、虫眼鏡になるレンズです。
通常のレンズの前に重ねて装着することで、被写体に接近して大きく撮れるようになります。
マクロレンズとは違う特徴があるのでまとめてみます。
- 通常レンズに装着してマクロ撮影ができる
- 数千円などコストが安い
- 被写体に近い範囲でしかピントが合わない(風景撮影不可)
- レンズごとのフィルター径に合わせて購入する必要がある
- 画質低下が起きる(特にMCレンズ)
このようにクローズアップレンズは低予算でマクロ撮影ができるのが一番のメリットです。
しかしデメリットもあり、マクロレンズのように遠くにはピントが合わず、レンズに近い距離しかピントが合いません。そのため装着している間はマクロ撮影しかできなくなります。
また装着するレンズと同じフィルター径のクローズアップレンズを使用します。そのためフィルター径の異なる別のレンズにも装着したい場合は、もう一つクローズアップレンズを購入する必要があります。
■「MC」と「AC」の2種類がある
クローズアップレンズは性能の違いで2種類に分類されます。
「MC」…1枚レンズのため軽量。色収差(色ズレ。例えば花びらのフチに青い線が出る現象)が発生しやすい。価格は2,000円前後。
「AC」…2枚のレンズを合わせているためやや重くなる。2枚のレンズで色収差を軽減しているので画質面で有利。価格は5,000円前後。
「MC」レンズは値段が安く「AC」レンズより軽量です。ただ色収差が起きやすいため画質面ではやや劣ります。画質にこだわる写真を撮る場合には向いていませんが、気軽に撮影する場合やブログ用途にはおすすめできます。
「AC」レンズは画質低下が少ないのでより綺麗なマクロ写真が撮影できます。ただ値段が高く、ややレンズ部分が重くなります。
■クローズアップレンズのNo.
クローズアップレンズは拡大率が異なる1~10のNo.に分かれています。簡単に特徴をまとめてみます。
No.1レンズ…レンズが薄く、拡大率は小さい。
No.10レンズ…レンズが分厚く、拡大率が大きい。またピントが合う範囲がさらに狭くなる。
このようにNo.が大きくなるほど拡大率も大きくなっています。(大手メーカーのケンコー・トキナーではACレンズはNo.5までとなっています)
基本的には大きく撮影できるのが良いように思いますが、例えば小さい花の全体を大きく写したいのか、そのめしべ・おしべまで拡大して撮影したいのかなど、人によって撮りたいマクロ写真は違ってきます。
No.10など大きなナンバーになると逆に引いて撮ることが全くできないため、イメージしているマクロ写真以上の拡大写真になることがあります。
そのため撮りたい写真によって、選ぶナンバーは変わってきます。また装着するレンズの最大撮影倍率(どれだけ大きく写せるか)によっても実際の大きさは変わってきます。
もし装着したい通常レンズの最大撮影倍率が0.1倍などかなり小さい場合(被写体に接近できず大きく写せないレンズの場合)は、No.1やNo.2を装着しても拡大率が小さいためあまり変化を感じることができません。そのようなレンズに装着する場合はNo.4やNo.5などの拡大率の高いクローズアップレンズをおすすめします。
大きく写そうとするほどピント範囲が狭くなり、撮影がシビアになるのはクローズアップレンズに限らずマクロレンズでも同じです。
■フィルター径を合わせる
クローズアップレンズは装着する通常レンズのフィルター径に合うものを購入する必要があります。
このレンズは58mmなので、58mm径のクローズアップレンズを購入します。
ただ口径の小さいレンズに転用させる方法もあります。
例えば58mm径のクローズアップレンズを所有していて、52mm径のレンズに装着したい場合は、ステップアップリングという口径を変換するアダプターを間に挟むことで小さいフィルター径にも装着できるようになります。
<ステップアップリング>
(口径の小さいクローズアップを口径の大きなレンズに装着することはできません)
■こんな用途に
クローズアップレンズは装着が簡単で仕組みも理解しやすく、予算をかけずに手軽にマクロ撮影を試してみたい人におすすめです。
エクステンションチューブとは
エクステンションチューブ(接写リングまたは中間リングとも呼ばれる)もマクロ撮影ができるアイテムです。
カメラボディとレンズの間にリングを装着して使用します。
ボディに装着するため、各メーカーのマウント(ボディのレンズ取付部の規格)ごとに販売されています。
エクステンションチューブを使えば手持ちのレンズ全てでマクロ撮影ができるというメリットがあります。
構造は単に鏡筒だけ(レンズ部分が無い)のリングなのですが、間に挟むことでレンズとボディ内にあるセンサーとの距離を空けることになるため、被写体に近づいて大きく写すことができる仕組みになっています。
どのような特徴があるのかまとめてみます。
- 1~2万円程度の予算でマクロ撮影ができる
- 余分なレンズを通さないので画質低下が起きない
- 同じマウントなら全てのレンズがマクロレンズとして使える
- レンズとボディの間に装着する手間がかかる
- F値が大きくなる(シャッタースピードが遅くなる)
- 装着時は接写以外に使えない
クローズアップレンズと比較するとコストがかかりますが、マクロレンズを購入するよりは低予算で導入ができます。
このリングは各マウントごとに用意されているため、ボディに装着すればあとは(同一マウントの)どのレンズでもマクロ撮影ができるようになります。
デメリットはボディとレンズの間に装着するため手間がかかることです。
またクローズアップレンズ同様に、接写以外はピントが合わないので装着している間はマクロ撮影にしか使用できなくなります。
■純製品か社外品か
エクステンションチューブはメーカー純製品のものと、社外品(サードパーティ製)が発売されています。
メーカー純製品は1~2万円程度で値段が高くなりますが電子接点があるのでAF・絞りが動作します。
(Kenko製なども純製品に近い品質です)
一方社外品は数千円程度で販売されていて、一部で電子接点がない種類があります(その場合はAFと絞りの操作はできません)。電子接点があっても、AFの挙動が不安定になることがあります。
また社外品にはリングの面(マウント側・ボディ側)にプラスチックが使用されている場合があり、望遠レンズなど重いレンズを装着すると割れやすくなるので注意が必要です。
■リングを複数使用すると超拡大に
エクステンションチューブはリング1枚より2枚、3枚と複数合わせると拡大率がアップします。
ただ1枚でも拡大率が大きいので、拡大するほどピント範囲が狭くなりピント調整が難しくなります。
■こんな用途に
エクステンションチューブは拡大率が大きいのでマクロレンズの代わりとして使えます。そのため予算を抑えて本格的にマクロ撮影を楽しみたい人におすすめです。
まとめ
- 最大撮影倍率が大きいほど大きく写せる
- 被写体によって50mm、100mmなど焦点距離を選ぼう
- 50mm相当なら標準レンズとしても使える
- クローズアップレンズで手軽にマクロ撮影